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HISTORY

日本におけるハーブとスパイスの歴史をたどる旅

※本記事は、ハーブや植物に関する一般的な情報の提供を目的としており、特定の成分や商品の効果・効能を保証するものではありません。医薬品・医療行為の代替を意図したものではなく、参考情報としてご覧ください。

日本でハーブ・スパイスはいつから使われてきた?

私たちの生活に欠かせないハーブやスパイス。料理に風味を加えるだけでなく、健康や美容にも役立つ存在として注目されています。
でも、これらのハーブやスパイス、日本ではいつ頃から使われてきたかご存知でしょうか?
今回は、日本におけるハーブとスパイスの歴史を、時代ごとにご紹介します。

邪馬台国の時代にはまだ使われていなかった?

「ハーブ=西洋のもの」というイメージがあるかもしれませんが、東洋でも古くから植物を薬や香料、料理、染料として活用してきました。
紀元前5000年ごろ、中国には「神農(しんのう)」という伝説の人物がいて、365種の薬草を見つけたといわれています。彼の知識は『神農本草経』という中国最古の薬学書にまとめられました。

一方、日本の古代について記された『魏志倭人伝』には、以下のような記述があります。

「薑(ショウガ)、橘(カラタチ)、椒(サンショウ)、蘘荷(ミョウガ)が自生しているが、(倭人は)これを滋味とすることを知らない」
出典:永岡治『クレオパトラも愛したハーブの物語 魅惑の香草と人間の5000年』PHP研究所

つまり、現在ではおなじみの和風ハーブも、邪馬台国の時代(3世紀ごろ)にはまだ積極的に使われていなかったようです。

 

奈良時代になるとハーブの使用が始まる

時代が進み、奈良時代(8世紀)になると、ショウガやサンショウ、ニンニクなどが文献に登場します。

『古事記』には、皮をむかれたイナバの白ウサギを「蒲黄(がまのほ)」で治療したという神話が記されており、これが日本最古の薬草使用の記録といわれています。
さらに、東大寺の正倉院に保管されていた『種々薬帳』には、「胡椒(コショウ)」や「桂心(シナモン)」などのスパイスの名前も。中国から伝わったこれらのスパイスは、薬として使われていたとされます。

 

平安時代には地中海産ハーブも登場

平安時代には、京都近郊の薬園でさまざまな薬草が栽培されるようになります。
『延喜式』や『和名類聚抄』には、ワサビ、ショウガ、ニンニク、シソといった薬味植物に加えて、なんとコリアンダーやフェンネル、サフラワーといった地中海原産のハーブも登場しています。これらはシルクロードを通じて日本にやってきたと考えられています。すでにこの頃から、日本で西洋ハーブの栽培が行われていた可能性があるのは驚きですね。

 

織田信長が開かせた日本初のハーブ園

戦国時代、織田信長はポルトガルの宣教師に命じて、伊吹山の麓に薬草園を作らせたという記録が残っています。そこでは地中海沿岸原産のハーブが栽培され、日本初の“ハーブ園”ともいえる場所だったとされています。
ただし、信長の死後はキリスト教の禁止と共に薬草園も荒廃したようです。
この時代には、朝鮮から伝来したトウガラシや、オランダや中国を通じて西洋のハーブや薬学の知識も徐々に広まっていきました。

 

江戸時代、水戸黄門が家庭療法書を編纂

江戸時代には、薬草が庶民の生活にも浸透し始めます。
特に注目したいのが、水戸藩主・徳川光圀(水戸黄門)のエピソード。隠居後、貧しい人々のために自生する薬草で治療を試み、『救民妙薬』という家庭向けの薬草レシピ集を編纂させました。
これは日本最古の家庭療法書として知られており、季節ごとに使える薬草や効能が記されています。

 

明治・大正期、ハーブ栽培が農家の「副業」として注目される

明治時代になると、政府は欧米からさまざまな植物を取り入れますが、当初ハーブはあまり定着しませんでした。
しかし第一次世界大戦(1914年)の影響で香料植物の価値が高まり、ハーブの栽培が農家の副業として注目されるようになりました。サフランやミント、ローズマリー、タイムなどが国内で盛んに栽培され、特にサフランは婦人薬「中将湯」などに使われ、人気だったそうです。

 

昭和初期~戦後:一度忘れられたハーブ文化

昭和に入ると、ハーブの需要は減少。戦時中には「贅沢は敵だ」とされ、香りを楽しむ文化は見向きもされなくなってしまいました。しかし戦後の復興、高度経済成長を経て、ようやく日本にも「ハーブを楽しむ心の余裕」が戻ってきたのです。

まとめ:日本とハーブの深く長い関係

現代では当たり前のように使っているハーブやスパイスも、日本では長い時間をかけて少しずつ受け入れられ、根づいてきました。

薬として、香料として、そして食文化の一部として――
日本人の暮らしの中で、ハーブはこれからも私たちのそばにある存在であり続けるでしょう。

参考文献

  • 永岡治(著)『クレオパトラも愛したハーブの物語 魅惑の香草と人間の5000年』, PHP研究所, 1988年
  • 丁宗鐵(編著)『スパイス百科 起源から効能、利用法まで』, 丸善出版, 2018年
  • 朝比奈千鶴(著)『こころとからだに薬用ハーブの贈り物 Birthday Herb』, 朝日新聞出版, 2017年

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MIKI

MIKI

「癒しの背景に、植物科学のロジックとやさしさを。」知性と感性で綴るハーバルライター

元々はIT業界で10年以上のキャリアを持つ、異色のハーバルライター。 多忙な日々の中で心身のバランスを崩したことをきっかけに、「食」や「植物」、「人の自然治癒力」に深く関心を抱くように。 その後、メディカルハーブを学び、ハーバルセラピストの資格を取得。現在は、有機野菜の栽培やハーブ農園の立ち上げにも挑戦しながら、メディカルハーブの魅力を発信するライターとして活動中。

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