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オンリー1か、ナンバー1か──生き残るための戦略とは?

「オンリー1でいいのか、ナンバー1を目指すべきか?」
そんな問いを、ふと立ち止まって考えたことはありませんか?
実は、自然界の生き物たちはとてもシンプルな答えを持っています。
彼らの世界では、“ナンバー1しか生き残れない”のです。


ガウゼの法則──共存できない生き物たち

旧ソビエトの生態学者、ゲオルギー・ガウゼが行った実験は、そんな自然のルールを明らかにしました。2種類のゾウリムシを1つの水槽に入れると、餌も水も十分にあるにもかかわらず、最終的に一方が姿を消しました。つまり、同じ場所で同じ資源を求める生物は共存できないのです。
この考え方は「競争排除原理」として、現代の生態学の基本理論にもなっています。
けれど、すべての生き物がそんな風に排他的に生きているわけではありません。
ガウゼはさらに別の実験を行います。今度はゾウリムシとミドリゾウリムシを同じ水槽に入れたところ、共存が可能だったのです。理由は明確でした。ゾウリムシは水槽の上層で浮遊する大腸菌を食べ、ミドリゾウリムシは底で酵母菌を食べていたのです。同じ空間の中でも、“生きる場所”や“食べるもの”が違えば、ぶつかり合わずに生きていける。これが「棲み分け」と呼ばれる戦略です。


棲み分けは、植物の世界にも

動きの少ない植物にも、棲み分けの戦略はあります。
一見すると、同じ場所にさまざまな木々や草がひしめき合っているように見える森。しかし実際には、高木が太陽の光を集め、その下では中木が枝を伸ばし、さらに地表では日陰に強い草が暮らしています。上下に分かれた立体的な住み分けがあるのです。足元に生える雑草にも、似たような棲み分けが見られます。歩道の真ん中、公園の隅、道の外れ。それぞれの環境に適した種類があることがわかります。
動物の世界でも、シマウマとキリンは食べる草の高さを変え、昼と夜に活動を分ける動物もいます。空間や時間をずらして棲み分けることで、共存が可能になるのです。


日本タンポポは弱くない

よく知られる例が、西洋タンポポと日本タンポポの関係です。
西洋タンポポは一年中咲き、軽い種をたくさん飛ばし、自家受粉でどこでも増えます。一方、日本タンポポは春しか咲かず、他の花粉と交わることで種を作ります。繁殖力では西洋タンポポが優勢です。ですが、日本タンポポには独自の戦略があります。春に花を咲かせた後、夏には地上の葉を枯らして“夏眠”に入り、強い植物との競争を避けて地中でひっそりと過ごすのです。
西洋タンポポは夏の競争の中で力尽きることもありますが、日本タンポポは確実に命をつないでいきます。


「ニッチ」──自分だけの居場所

「ニッチ」という言葉は、ビジネスでもよく使われます。ニッチ市場やニッチ戦略といった形で、「大きな市場と市場のすき間にある、特定の小さな市場」という意味で使われます。もともとは寺院の壁に設けられた装飾品を置く“くぼみ”を指す言葉で、それが生物学に転用され、「生物が生きる場所や果たす役割」という意味で使われるようになりました。
生物学では、一つのニッチには基本的に一つの生物種しか住めないとされます。大きなニッチもあれば、ごく小さなニッチもあります。重要なのは、そのニッチの中で“ナンバー1であること”。ニッチが小さければ競争も起こりにくく、無理なく生きていけます。
こうしたニッチに自分の居場所を見つけられれば、無理な競争に巻き込まれることなく、自分らしく生きる道を選べます。だから自然界では、たくさんの小さなニッチが並び、無数の命が共存できているのです。


強さの種類はひとつじゃない

生物学者ジョン・フィリップ・グライムは、植物の成功戦略を次の3つに分類しました。

  • Competitive:コンペティティブ(競争型)、強さで勝つ
  • Stress tolerance:ストレス・トレランス(ストレス耐性型)、厳しい環境に耐える
  • Ruderal:ルデラル、撹乱適応型、変化や不安定さに対応する

それぞれに強みがあり、どれが優れているとは一概に言えません。
例えば、変化の多い環境では競争型よりも、柔軟に対応できる撹乱適応型が有利です。不安定さはリスクであると同時に、多様な生き物が活躍できるチャンスでもあります。こうした分類は、働き方やビジネス戦略にも応用できるかもしれません。自分は「競争型」か「変化対応型」か──そんな視点で考えてみるのも面白いでしょう。


戦う場所を選ぶということ

変化が激しく、正解がひとつではない今の時代。私たちもまた、それぞれの「ニッチ」を模索する局面に立たされています。「戦う」とは、勝ち負けだけの話ではありません。自分の強みを発揮できる場所を選び、無駄な競争を避けて、確実に命をつないでいく──それが多くの生き物が選んできた戦略です。
誰もが広い舞台で目立つ必要はありません。目立たなくても、自分にしか咲かせられない花がある。その場所を見つけたとき、人は本当の意味で“ナンバー1”になれるのかもしれません。

参考文献:

  • 稲垣栄洋(著)『植物はなぜ動かないのか』, 2016年, ちくまプリマー新書 252

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MIKI

MIKI

「癒しの背景に、植物科学のロジックとやさしさを。」知性と感性で綴るハーバルライター

元々はIT業界で10年以上のキャリアを持つ、異色のハーバルライター。 多忙な日々の中で心身のバランスを崩したことをきっかけに、「食」や「植物」、「人の自然治癒力」に深く関心を抱くように。 その後、メディカルハーブを学び、ハーバルセラピストの資格を取得。現在は、有機野菜の栽培やハーブ農園の立ち上げにも挑戦しながら、メディカルハーブの魅力を発信するライターとして活動中。

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